甲状腺とは

甲状腺

甲状腺は、いわゆる喉ぼとけのすぐ下にある重さ10~20g程度の内分泌臓器です。蝶が羽根を広げたような形をしており、気管を取り囲むように位置しています。正常な状態だと、前面を覆う筋肉によって触れることはできませんが、腫れやしこりが生じると触れられるようになります。

甲状腺は、新陳代謝を促進するためのホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌する臓器で、身体活動に大きく関与しています。そのため、甲状腺の働きが強すぎると新陳代謝が促進されすぎて身体は消耗傾向になり、逆に、甲状腺の働きが弱まると新陳代謝が低下して身体機能も低下気味になります

このような症状が気になる方は一度甲状腺の検査が必要です。

  • すごく動悸がする人、汗をかく人
  • 食べても食べても太らない人、体重が最近かなり減った人
  • ものを持つと手が震える人
  • 最近だんだん認知症みたいにボーとした感じになって心配な方
  • 健康診断などで原因不明の脂質代謝異常を指摘された方
  • なんだか最近寒がりになった方
  • 健康診断で「甲状腺が大きい」と言われた方
  • なんだか最近首の前が腫れている感じがして、ものが使える感じがしてきた方

1~3 → 甲状腺機能亢進症の可能性があります。
4~6 → 甲状腺機能低下症の可能性があります。
7~8 → 甲状腺腫、甲状腺腫瘍の可能性があります。

甲状腺機能亢進症とは

甲状腺ホルモンの作用が強すぎることによって生じる病気です。代表的なものとしてバセドウ病が挙げられます。バセドウ病は、甲状腺を異物とみなして産生された抗体(TSHレセプター抗体)が、甲状腺を刺激し続けることによって甲状腺ホルモンが過剰に分泌され(甲状腺機能が亢進した状態)、結果的に、身体の新陳代謝が活発になり過ぎる病気です。 病気が進むと、「寝ていても、ジョギングしている」と例えられるほど身体の機能は活動的な状態になり、様々な自覚症状が現われます。 ただ、こうした症状は徐々に進行していくため、自覚症状はあっても、自分が病気にかかっているという認識が遅れ、耐えられなくなるほど重篤化するまで症状を我慢してしまう方も多いようです。 そのほかに甲状腺機能亢進症を生じる病気として、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、ホルモン賛成腫瘍などが挙げられますが、これは治療を始める前の検査(採血、エコーなど)で識別する必要があります。

代表的な甲状腺機能亢進症の疾患

バセドウ病

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰につくられる病気、すなわち甲状腺機能亢進症を起こす代表的な病気です。特殊な抗体が産生されることにより、甲状腺を過剰に刺激して甲状腺関連ホルモンを分泌させてしまいます。これに伴い、暑がり、疲れやすい、だるい、眼球突出、甲状腺腫大、イライラ感、集中力の低下、不眠、発汗、脱毛、筋力低下、手足の震え、動悸、むくみなど多様な症状が見られます。

甲状腺機能低下症とは

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの作用が弱すぎることによって生じる病気です。代表的なものとして橋本病(慢性甲状腺炎)が挙げられます。橋本病は、甲状腺を異物とみなして産生された抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)が、甲状腺自体の細胞を破壊していく病気です。甲状腺が破壊されると甲状腺ホルモンの分泌が減り(甲状腺機能が低下した状態)、身体の新陳代謝は停滞し、バセドウ病とほぼ反対の症状(身体機能が低下した状態)が現われます。 橋本病の場合、自覚症状が現われない場合もありますが、治療の必要がないということではなく、定期なフォローアップが必要です。

代表的な甲状腺機能低下の疾患

亜急性甲状腺炎

甲状腺に炎症が起こる病気です。全経過が2〜4ヶ月程度と、急性と慢性の中間くらいの期間なので、亜急性甲状腺炎と呼ばれます。主な原因としては、ウイルスの感染が疑われていますが、詳しい機序は明らかにされていません。症状についてですが、甲状腺の辺りに痛みを覚えます。前駆症状として、風邪様の症状が出て、それから2〜3週間後に発症します。甲状腺は硬く腫れ、押すと痛みが生じます。痛みは、左右に移動することもあります。また、発熱が見られることもあります。但し、甲状腺に溜まっているホルモンはせいぜい1ヶ月分くらいなので、甲状腺機能亢進症の症状は、やがて自然に治まります。甲状腺機能亢進症後の一時期、機能低下症に変じてから正常化するケースもあります。

橋本病

橋本病は、甲状腺機能低下症の代表的な病気であり、圧倒的に女性に多く見られます。甲状腺ホルモンの量が不足して新陳代謝が低下するので、全身が老けていくような症状がみられます。無気力になって頭の働きが鈍くなり、忘れっぽくなって、ひどくなると認知症の原因の1つにもなります。寒がりになり、皮膚も乾燥してカサカサになったり、体全体がむくみ、髪も抜け、眠気が伴い、ボーッとして活動的でなくなったりします。甲状腺そのものの症状は、甲状腺の腫れです。ちょうど首の正面が腫れていて、硬く、表面がゴツゴツした感じになっています。

甲状腺腫、甲状腺腫瘍とは

実は病気のない人でも「甲状腺が腫れている」と言われる人がいますので、怖がらずにまずは、病院を受診し、採血検査とエコー検査を受ける必要があります。

たいていの人は、「単純甲状腺腫」「線種様甲状腺腫」であり、特に腫大傾向がなければ無治療で問題ないことが多いです。一方で、「悪性の疑いあり」でも、腫大傾向がなければ経過観察することもあります。甲状腺の腫大には、「ヨードの摂取量」が関係していることが多く、海藻類などの急激な大量摂取は、控えてもらうことが多いです。

検査について

(1)~(8)などの症状から疾患の存在が疑われた場合は、まずは「血液検査(甲状腺ホルモンの量や特殊な抗体の存在を調べる)」と 「超音波検査(甲状腺の形や大きさなどを調べる)」 のふたつが行われます。 検査結果がでるまでに1週間弱かかる場合もありますが、検査自体は1日で済むことが多く、苦痛もありません(超音波は即日には施行できず予約になることもあります)。 超音波で腫瘤が発見された場合は、一般的には、血液検査の結果と照合し、必要があれば後日針生検(麻酔をして甲状腺に針を刺して組織をとります)を行い、悪性度をチェックしたり、並行して頸部のCTをとったりします。診断が確定して治療を開始された後も、採血検査と超音波検査を定期的に行い、病態を把握していきます。

治療について

甲状腺機能亢進症および低下症の治療は、薬物療法が中心になります。定期的に行なわれる血液検査をもとに、バセドウ病の場合は甲状腺ホルモンを抑える薬を、橋本病の場合は甲状腺ホルモンを補充する薬を服用し、血液中の甲状腺ホルモンの量をコントロールしていきます。亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎など一過性の症状が出現している場合にも、ある程度の期間、薬が処方されることもあります。

こうした治療の過程で甲状腺の腫れはおさまり、耐えられないような自覚症状も緩和していきます。ただし、薬物療法による治療は長期にわたることがあります。途中で治療をあきらめたり、自己判断で薬の服用を止めたりしないように、根気よく治療を受けなければなりません。 バセドウ病の方で薬物療法だけでは症状が改善されない方、あるいは薬物療法以外の治療を望まれる方には、放射線療法(アイソトープ治療)や手術療法が医師から推薦されることがあります。このふたつの治療効果には、たいへん目ざましいものがありますが、治療を受ける方の年齢や身体的条件、ライフスタイルに対する考え方などで、その治療法が「適する・適さない」といった面があります。 医師からの説明をよく理解した上で、治療を受けましょう。

また、両疾患ともに自己免疫疾患(自分の正常な組織に対する抗体ができることによって生じる病気。慢性関節リウマチなどと同じ類の病気です)であることから、加齢による病態の変化もありますし、特に妊娠・出産の前後に大きく病勢が代わる可能性があることが知られていますので、通院による定期な検査は必須です。